
HASAMI仕掛け人が語る、ソークシリーズの舞台裏【後編】
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当店でも大人気の波佐見焼ブランド「HASAMI」を展開する有限会社マルヒロ。そのブランドマネージャー・馬場匡平(ばば きょうへい)さんと、「ソークシリーズ」の製造を手がける窯元 菊祥陶器の代表・木下博昭(きのした ひろあき)さん。
波佐見焼の可能性を切り拓き続ける二人が語る、「ソークシリーズ」制作秘話の一部を、前編後編でご紹介します。
今回は、このソークシリーズで表現したかったこと、そして届けたかった人物像について切り込みます。波佐見焼のフロントランナーが語った、意外なターゲットとは?

ソークシリーズを作るにあたって大切にしたところはなんでしたか?
マルヒロ馬場さん(以下、馬場さん):この製品を作るにあたって念頭に置いていたのは、職人の実力を打ち出したいというところ。なおかつという"色土(粘土に顔料を混ぜて焼き上げる手法)"という今で世の中に売れているものに対して、量産でもそういった形ができるというのを売りにしたいという、2つの部分が大きかったですもんね。

現在今まで日常食器を作っている中で、使いやすさの面とかである意味技術を...んー、排除しましょうとか、値段が上がるからやっぱりある程度のところで止めましょう、というものばっかりが流通していると思うんですよね。でもやっぱり使う人に対して緊張感をもってもらうとか、パッと見では分からない技術っていうのがこのソークシリーズにはいっぱい入っているので、そう言うところが売る人間からすると「語れる」というか、こういうところにこの意味があるんですよというのが言える。
これはやっぱり多く売れるというよりかは、共感してくれた人たちに、例えば割れちゃってもまた買おう、と思ってもらえるように職人さんの技術を込めるって言う。それが今回のソークシリーズの企画の中で念頭に置いた部分ですね。

菊祥陶器木下さん(以下、木下さん):前回のシリーズから新しくリニューアルしてシリーズ化するにあたって、もともと練り込みの土を使って、土自体に色を付けて商品化しようか、と言うところから始まったんですよね。
"色土"ってなるとやっぱりコストの問題とか、現場管理の問題とかスムーズにいかない点がいくつかあったので、どうすればいいかと。じゃあ液体を生地の中に浸透させる「ソーク(染み込ませる)シリーズ」ならどうか、という流れで開発したのがそもそもの原点で。

そこから、海外の製品などをマルヒロさんに取り寄せてもらって、その題材を参考にオリジナリティのある製品にすればどうすればいいか、というのを研究していったんです。とにかくよそにない、「なんだこれは」という製品を目指していきました。
馬場さん:展示会とかでお客さんに触ってもらっても、ぱっと焼き物だと分かる人って少ないですもんね。で、実際焼き物ですって言った時にその薄さや質感にびっくりして貰えるって言うのは、狙い通り、といったら変だけどやっぱり一つ嬉しいところではありますもんね。
それと、今まで釉薬をいっぱい作ってきた中で、絶対的にこの液体じゃないと出せない色ってのがわかったんです。釉薬で同じような色が出せますかって言われても、色合いは合わせられたとして、質感は全然別物になってしまう。ちょっとおこがましいかもしれないけど、唯一無二と呼べるぐらいの基準値のものになったのかな、って言う実感はあります。
木下さん:ある程度方向性が決まった段階で色々に詰めていきながらスタートして、生地を作るのも通常の工程だったらありきたりの商品になってしまう。この薄さ、持った時の軽さ、上品さ、手触り感というのをお客様に喜んでもらえれば、気に入った人たちが「今までにない陶器だ、食器だ」と言ってくれる。食卓に新しい風を吹き込むきっかけになればなと思います。
そんな商品をお客様手元に届ける戦略みたいなところはマルヒロさんにお願いしつつ、引き続き製品として煮詰めていきたいですね。

こだわり抜いたソークシリーズ。ターゲットはどんな方達なんですか?
馬場さん:今まで実はあんまりターゲットを絞ってなかったんですよね。「いいな」って思ってくれたらありがとうございます!って感じで。でも一つこの商品で意味合いが変わってきそうなのは、日常の中で使いやすいのはもちろんなんですけど、ちょっと特別な日だったり、やっぱりこれじゃないとって言って選んでもらえるものになってほしい。だから、こういう人のためにっていうよりかは、うーん難しいですね。。。(笑)
木下さん:通常であれば商品開発にあたって、男性向け女性向け年齢層っていうのを絞りながら、そこに大した商品を作っていきますよね。でも匡平君も言った通りターゲットが先にないんですよ。
それよか自分たちの新しい器、業界の固定観念を壊してしまうような商品を作ることで、それに共感できる人が若い人だったり、伝統的な焼き物が好きな方だったりが、「これが焼き物なんだ!」て思いながら共感して使ってもらえるような、しかもそれが海外に行った時に、「日本の焼き物ってこんな表現ができるんだ」っていうのも広げていけるような切り口の製品として作ろうと思ったんですよ。だから、正直具体的なターゲットって言うのはそんなに、ないっちゃんね。
馬場さん:そう、でもやっぱり譲れなかったのは、レンジで使えたり食洗機もいけたりっていう最低限の使い勝手。僕らの街では400年も焼き物を作っているので、そこは守りながらも、使う時にちょっとだけ繊細になってもらえるような商品にしたいなっていうのがあって。そういったもうちょい別のベクトルで活きる商品を気に入ってくれる方が、若い人でもお年寄りでも、買ってくれたら損はさせませんよ、っていうのは思いとしてありますよね。
木下さん:今までにない商品を開発することで、今まで陶器や焼き物に興味がなかった人に「こういうのもあるんだ」って言うことで、「こういうのを使いたい」と思ってもらえる人が一人でも増えてくれると嬉しいなと思って作ってます。
製造工程も規格外なら、コンセプト設計も一般的なそれとは一線を画している「ソークシリーズ」。共感してくれる人に使い続けてもらえれば嬉しい、という心意気。グッときてしまいました。
有田焼の下請けとされていた波佐見焼をブランド化し「おしゃれで手頃で使いやすい焼き物」というイメージを確立した有限会社マルヒロ。そしてそのものづくりを技術で支える窯元 菊祥陶器。現代的な感性で波佐見焼を食卓の主役にする作り手たちが見据える次のステージを垣間見ることができたような気がします。
こだわり抜いて作られたその質感、色味、形状。ぜひお一つ手に取ってみてはいかがでしょうか!