これはいい趣味。金継ぎセットで割れた器を継いでみました

金継ぎを、ついにはじめよう。
「割れた器、捨てないの?」
今までこんな言葉を幾度となく投げかけられました。
尤も正論なのですが、捨てなかったのは私の心にいつも「金継ぎ」があったから。
器は割れても、気持ちは割り切れないのが器好きの性というもの。
だったら「金継ぎ」すればいい。そんな気持ちの保険にもなるのが「金継ぎ」です。
大切な器も復活できると考えたら、少し気楽に普段遣いできますしね。

金継ぎ、今までやりたいと思ってもなかなか手が伸びなかった方、いるんじゃないでしょうか。
ついにCRAFT STOREで「つぐつぐの金継ぎキット」の取り扱いが始まるということで、この機会に私もデビューしてみました。
そもそも金継ぎって?
器好きなら「金継ぎ」というワード、一度は聞いたことがあるでしょう。
金継ぎといっても「金」を使って器を溶接するわけではありません。破産してしまいます。
ザックリ言うと、漆の糊で割れた部分をくっつけ、継ぎ目に金粉をのせる補修のこと。
ちなみに金継ぎといっても、仕上がりを金にするか黒や茶褐色にするかはお好みで選ぶこともできます。

金継ぎされた器は、それまでとはまた違った美しさがあります。
割れや欠けが描く線は、まったくの自然そのもの。それをあえて強調したり残したりすることで、風流な美しさがあるのです。
留意していただきたいのは、以前の器のようには扱えないということ。たとえば…
・強度は、さすがに割れる前のように元通りになるわけではありません。
・電子レンジは使うことができません。
本来の設計の意図を外れる工作をするわけですから、ある程度は自己責任の領域に踏み込むことは念頭に置く必要があります。
「金継ぎ」実際にやってみよう
「つぐつぐの金継ぎキット」には、基本的に必要な材料がほぼすべて揃っています。
もちろん、作業手順の説明書もセットに付属していますからご安心を。

いくつかはご自身で用意する必要があります。たとえば以下のもの
・糊をつくる小麦粉
・道具の洗浄用の食用油など
・使い捨てゴム手袋 (付属していますが、いっぱいあると安心です)
「漆」といえば「かぶれる」というリスクがあります。
あくまで個人的な感想としては、ついても油で落とせば大丈夫という印象。そこまで恐れなくてもいいかもなという感覚でした。
こればっかりは体質的な個人差がありますから、皆様なにとぞご自身の責任で…
始める前に、もう一つ。「金継ぎは一日にしてならず」
作業としてはそこまで複雑なわけではないけど、乾かすのに一週間かかる工程があるからです。
みんなで集まって「金継ぎ会」をしようものなら、週に一回なり、何回か通うことを覚悟したほうがいいでしょう。乾いていない器は持ち帰りづらく、私達は意図せず毎週集まることになりました。
逆に言えば意中の人とやるのにはいいかもしれませんね、何度もお家に呼べますから。

あくまでスムーズに行けばの話、乾燥期間を含めて完成まで約10日。
しかし特に最初のうちは「乾いたけどちょっと穴があるな」なんて不具合が出やすいので、もう一度漆で埋めて乾かして…と繰り返すことになると思います。だから気長にやりましょう。
そう、結構じっくりやるものなのですが、それもまたよし。ハマる人はハマる楽しさがありますからね。
まずは面取りから
まずは欠けた断面のカドを取るイメージで、軽くヤスリがけをしていきましょう。
磁器は固いからいいものの、陶器は柔らかくごっそり削れやすいので、あくまでかるーく。


漆で接着する
下処理が済んだら、ついに漆のおでまし。ここからはゴム手袋をして作業をしていきます。
小麦粉と水を混ぜ捏ねたところに「生漆」を混ぜます。これがチューブタイプでラクラク、垂れたり手に触れにくいから安心です。 これが破片と破片をつなぐ、基本の糊となるものです。

付属の竹べらを使って薄く断面に塗り、接着します。


写真は、断面に塗ったらチョコレート菓子みたいになったtayfull カトラリーレスト。
ちなみに竹べらが複数人分欲しいときは、割り箸をカッターで削って追加してもいいかも。

大きな欠けがある場合は、一層硬いペーストを作って、粘土のようにくっつけつつ埋め合わせていきます。


「漆風呂」で乾燥させる
漆はある程度の湿度がある環境で乾くのだそうで、湿度の高い「漆風呂」なるものを用意します。
ダンボールに濡れた布巾などと一緒に継いだ器を入れ、蓋をします。

最初の乾かし工程は、1週間以上かけてじっくり乾かします。そう、金継ぎはじっくりやるもの。この日はお茶でもして、気長に待ってください。

一週間後、カッターなどではみ出しや表面を整えたあとに、細かな穴を埋めていきましょう。
またしても漆を使い、今度はもう少しとろりとした液体を筆で塗っていきます。

写真では結構ダイナミックに塗ってしまっていますが、もうここから仕上がりをイメージした細い筆使いをしたほうが後々ラク。皆さんは気をつけてください。
乾いたあとにまだ小さな穴が気になるようであれば、同様に塗る→乾燥する工程を繰り返します。
漆を塗り、乾かす。
「黒色漆」なるものを作り、仕上がりをイメージして細く慎重な筆使いで割れ目をなぞります。
漆風呂で一日乾かしましょう。
ちなみに金ではなく黒い割れ跡がお好みの方は、ここで金継ぎを終えてもOK。

翌日、黒色漆が乾いたら付属の紙やすりで表面を軽くやすります。

茶褐色の「弁柄漆」をつくり、同様に筆で割れ目をなぞります。
上記と同じく、茶褐色の仕上がりがお好みの方はここで1日乾かして終えてもOKですよ。
「金継ぎ」といえども、言ってしまえば「黒継ぎ」「赤継ぎ」に仕上げることもできるというわけです。
金に仕上げたい人は、弁柄漆が乾く前に綿を使って金粉をのせていきます。
最後に一日乾かせば、完成!

いい趣味になる手応えあり。
金継ぎというもの自体、決して「初めてでも簡単に、きれいにできる!」と言えるものではなく、練習して少しずつ上達していくものだな、という印象を受けました。
だからこそ繰り返すことで学ぶことがあるし、作業手順の効率化や、筆の使い方などなど上達していくことがなんとも楽しい。やりがいは間違いなくあります。
その奥深さたるや、いい趣味になりそう。うっかり洗い物中に手を滑らせてしまいそうです。
